減速運航のソリューションー減速低負荷運航時の効率を最大化・最適化するVTI過給機
概要

VTI過給機
三菱重工が開発したVTI(Variable turbine inlet)過給機は、減速低負荷運航時の効率を最大化・最適化します。
可変タービンノズルを排ガス入口部に設置し、ノズルスロート面積を変化させることによって2~3 g/kWhの燃費を改善します。
構造がシンプルなため、高い信頼性を維持しながらも低コストと容易なメンテナンスを実現しています。
背景と詳細
運用面からの対応~過給機カット
2009年頃に始まった燃料費の高騰を背景に、現在多くの海運会社は減速運航を行っています。減速運航の運転方法として、過給機カットがあります。これは、複数台の過給機を装備するエンジンにおいて、部分負荷運転時に 1台の過給機を停止させる方法です。たとえば、過給機が4台ある場合、そのうちの1台を停止させると排気ガスは残りの3台に振り分けられます。これにより、掃気圧力を高め、燃費を改善することができます。
三菱重工舶用機械エンジンでは、過給機カットに対し、空気出口と排気ガス入口の部分に仕切り板を入れる方法を提案しています。これにより、ローターを抜き出すことなく過給機カットが可能です。また,潤滑油は,常にカットしている過給機に供給しておりますので,軸受への影響もなくなります。
通常、過給機は、油漏れを防止する為に自らシール空気を作り出しますが、過給機カットを行う場合、カットする過給機のコンプレッサ側シール構造を改造し、シール空気をカットしていない過給機より供給することで、過給機カット時の油漏れを防止するようにしています。高負荷運転に切り替える際には、盲板を外すだけでよい構造になっています。
ハードウェア面からの対応~VTI過給機
過給機カットは運用上の施策ですが、その一方で装置の改善によってハードウェア面から減速運航に対応できます。燃費効率の良さに対する船主様のニーズの高まりを受け、三菱重工でもさまざまな解決策、工夫を盛り込んだ製品開発を進めてきました。
その結果、生まれたのがVTI過給機です。一般に、減速運航でエンジンが部分負荷で運転されると、燃焼空気の掃気圧力が下がり、燃費が悪化する傾向にあります。しかし、VTI過給機は部分負荷運転でも高い掃気圧力を維持し、燃費を改善することができます。

VTI過給機の特長1:可変タービンノズルの採用

ノズルスロートと開閉図
当社のVTI過給機はターボカットと同様で、VTI過給機本体の中にノズルを2段階に切り替える可変機構が組み込まれております。ノズルの面積を狭くすることで、エンジンに供給する掃気圧力を上昇させ,これにより、低負荷で燃費を約3~5g/kWh低減します 注1。
注1 6UEC60LSE-Eco-A2に搭載した場合の参考値。
VTI過給機の特長2:シンプルな構造

VTI過給機の構造
現在、過給機はメーカー間の熾烈な競争の中で製品開発が進められています。三菱重工ではさまざまなリサーチを行い、過給機は構造が複雑になるほど、専門のスタッフでないとメンテナンスが難しく時間がかかるなどの問題があることが分かりました。
この問題を解決するため、三菱重工のVTI過給機ではシンプルな構造を実現しました。また、レトロフィットも従来機のガス入口ケーシング、ノズルをバルブ付ガス入口ケーシングとVTI用ノズルに変更することで、可能です。 注2
注2 MET-MA,MB過給機に対応可能。
VTI過給機の特長3:容易なメンテナンス
VTI過給機には数々のアイデア、工夫が盛り込まれていますが、そのひとつとして、ノズルの改良が挙げられます。従来からあるノズルの翼にリングを追加し、内側・外側に分かれる構造にしたことで、従来のノズルと同様,メンテナンスが非常に簡単にできます。
また、エンジンから排気ガスが流れてくるケーシングにも特徴があります。他社の過給機はケーシングが一体構造ですが、MET過給機のガス入口ケーシングは,二分割構造になっています。タービンを点検する際、ケーシングが一体構造であるとガス入口ケーシングとエンジン側配管部を取り外さなければなりません。特にエンジンは高温になるため、ケーシングは取り外しにくく、専門スタッフでないと危険を伴います。しかし、ケーシングを二分割構造にしているMET過給機では、内側のケーシングだけを取り外せばタービン翼及びノズルを点検,清掃ができるようになっています。VTI過給機も同じ構造を取り入れており,内側のケーシングを取り外すだけで,メンテナンスが容易であり,開放点検時間の短縮や点検費用の削減にもつながります。
シンプルな構造で低コスト、容易なメンテナンスを実現したVTI過給機は、お客様からも「シンプルなのでトラブルがない」「メンテナンスが簡単」「船のクルーでも対応できる」などの評価をいただいており、高い信頼性につながっています。
過給機開発における三菱重工の強み
舶用2ストロ-クエンジンに搭載される過給機において、三菱重工のマーケットシェアは30%以上であり、他の1社と世界のマーケットを二分しています。
停止することのない安定した船の運航を望まれる船主様にとって、製品の信頼性は非常に重要です。三菱重工製品の採用実績の多さは、船主様の信頼の高さを物語っています。
三菱重工の長年にわたるもの作りの伝統と、製品開発力。社内に蓄積された、有形無形の数々の知恵。これらは、三菱重工の大きな強みとなっています。
開発・設計、製造の現場においても、ふだんから開発担当者、研究所スタッフがアイデアを出し合い、議論し、試験・検証を行っています。VTI過給機は、こうした開発環境の中から誕生したのです。
今後の展開・戦略
三菱重工マリンマシナリは現在、お客様視点で、お客様のご満足を最優先としたビジネスを展開しています。
過給機の次の開発目標として、性能アップと大容量化に取り組んでいます。それにより、製品の小型化、価格の低下、設置スペースの節約など、お客様にさまざまなメリットをもたらします。
さらに、燃料コスト削減という、お客様の強いご要望にお応えするため、当社製品を効果的に組み合わせたソリューションを進化させています。